「蠟の首」(横溝正史)

現れた顔が誰のものかが本作品の読みどころ

「蠟の首」(横溝正史)
(「横溝正史ミステリ
  短篇コレクション③」)柏書房

「横溝正史ミステリ短篇コレクション③」

「蠟の首」(横溝正史)
(「消すな蠟燭」)出版芸術社

「消すな蠟燭」出版芸術社

「蠟の首」(横溝正史)
(「刺青された男」)角川文庫

「刺青された男」角川文庫

洋館の焼け跡から見つかった
二体の白骨化した焼死体。
それは当然、
屋敷に住んでいた
謙三・妙子夫婦で
なければならなかった。
しかし、
鑑定を依頼された医学博士が
復元した蠟の首は、
一方は間違いなく妙子だったが、
もう一人は…。

前回取り上げた「蠟美人」
使われていた「復顔術」。
頭蓋骨の形状から元の顔かたちを
復元するというものです。
記事の末尾に「復顔術も何かに
使われていたと思うのですが
思い出せません」と書いたものの、
気になって約3時間ほど
書棚の横溝正史をとっかえひっかえ
探してみました。
ありました。本作品です。

【「蠟の首」事件概要】
〔事件発生〕
昭和12年秋(岡山県の一農村)
〔事件の経緯〕
岡山県にて洋館が不審火によって焼失、
住人である謙三・妙子夫婦らしき
白骨遺体が見つかる。
復顔術によって鑑定した結果、
一方は妙子、
もう一方は謙三とは異なる相貌の
人物であることが判明。
〔捜査関係者〕
木村刑事
…所轄暑刑事。事件に不審を抱き、
 大河内博士に鑑定を依頼。
大河内博士
…岡山医大の医師。復顔術を施行。
北村博士
…大河内博士の助手。
〔事件関係者〕
笠原謙三
…若い文学士。焼け落ちた洋館の主。
 火災で死亡したとされる。
笠原妙子
…謙三の妻。精神的に不安定。
 謙三同様、火災で死亡したとされる。
志摩子
…妙子の姉。謙三・妙子夫婦の
 過去のいきさつを証言。
お直
…洋館の老いた使用人。夫婦仲を証言。
河合仙吉
…謙三の親友。妙子の婚約者。
 かつて謙三・妙子と三人で旅行中、
 船の中から失踪、
 転落死したとされている。
〔事件関係者以外の登場人物〕
※本作品は入れ子構造となっていて、
 本文が事件について記されている。
 以下は序文・末文部分の登場人物。
「私」
…序文・末文部分の語り手。
 岡山県の農村部に疎開している。
F
…「私」が疎開先で知り合った青年。
 事件を「私」に語る。

本作品の味わいどころ①
単なる「顔のない死体」にあらず

もう一人は別人であり、
謙三が妙子を殺害して逃亡した。
それが真相なのですが、
それだけなら単なる「顔のない死体」の
トリックにすぎません。
現れた顔は意外な人物のものであり、
それが本作品の最大の味わいどころと
なっているのです。

本作品の味わいどころ②
誰かに似てきた「復元した顔」

この復顔術を行った大河内博士は、
謙三・妙子夫婦とは面識がありません。
ところが謙三と思われていた
頭蓋骨から復元した顔は、
博士がどこかで見たことのある
顔だったのです。
謙三・妙子夫婦とは
まったく関わりのない大河内博士が
知っていた顔の持ち主とはいったい誰?
やはり、現れた顔が
誰のものだったのかが、
本作品の最大の味わいどころと
なっているのです。

本作品の味わいどころ③
ほのかに香るラブ・ロマンス

もう一歩の遺体が別人だったとなると、
本事件は火災による事故死ではなく、
替え玉殺人ということになるのです。
焼け跡から発見された二つの遺体は、
抵抗のあともなく(殺害後の放火なので
当然ですが)、仲良く並んでいました。
最後まで読むと、本作品は実は
替え玉殺人を描いた
単なる推理小説ではなく、
そこにラブ・ロマンスの要素を加えた
メルヘンであることに気づかされます。
そういう意味でもやはり、
現れた顔が誰のものだったのかが、
本作品の最大の味わいどころと
なっているのです。

戦後間もない
昭和二十一年発表の本作品。
戦時中に蓄えていた
アイディアと創作意欲が
遺憾なく発揮された、
横溝正史の傑作短篇です。
現代ではDNA鑑定などの
最新科学技術によって、
たとえ白骨死体でも
身元鑑定は容易でしょう。
このようなミステリが成立するのは
もはや昭和の時代のものだけに
なってしまっています。
それだけに昭和のミステリは貴重です。
秋の夜のミステリとして
いかがでしょうか。

(2020.9.27)

〔追記〕
こちらもどうぞ!

墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

ぜひチャンネル登録をお願いいたします!

(2023.10.31)

〔柏書房「横溝正史ミステリ
      短篇コレクション③」〕

神楽太夫

刺青された男
明治の殺人
蠟の首
かめれおん
探偵小説
花粉
アトリエの殺人
女写真師
ペルシャ猫を抱く女
消すな蠟燭
詰将棋
双生児は踊る
薔薇より薊へ
百面相芸人
泣虫小僧
建築家の死
生ける人形

〔出版芸術社「消すな蠟燭」〕
神楽太夫

蠟の首
消すな蠟燭
泣虫小僧
空蝉処女

首・改訂増補版

〔角川文庫「刺青された男」〕
神楽太夫

刺青された男
明治の殺人
蠟の首
かめれおん
探偵小説
花粉
アトリエの殺人
女写真師

〔関連記事:横溝ノンシリーズ作品〕

〔横溝正史ミステリ短篇コレクション〕

おどろおどろしい世界への入り口
Gerd AltmannによるPixabayからの画像

【今日のさらにお薦め3作品】

【こんな本はいかがですか】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA